広島から関東圏に、2020年4月からやってきた。期限は2022年3月まで。この二年間の間にどうしてもしておきたいことがあった。そう、富士山への登頂である。理由は特にない。
32歳、これといって普段から運動しているわけではない。中学ではバスケットボール部の補欠、高校では水泳部のリレーの補欠という運動に関して輝かしい過去の栄光は何一つない。そんな中年運動不得意男がぶっつけ本番で登れるほど富士山は甘い山ではない。
高尾山から陣馬山への縦走、百名山である筑波山への登頂、東京で一番高い雲取山への登頂と確実にステップアップをし、満を辞して本日富士山へと挑んだ。
午前3時、起床。シャワーを浴びて、コーヒーを一杯飲む。荷物の最終チェックをする。
4時、カーシェアの車に乗り込む。カーナビに富士スバルライン料金所を設定すると、1時間15分で到着する予定。車を走らせる。
6時、富士スバルライン5合目の吉田ルートスタートラインに立つ。5合目からの景色は雲の上にいるかのよう。スタート地点で富士山五合目総合管理センターの職員さんに釘を刺される。「一般道はもう閉鎖されているので、山荘やトイレは使えません。事故なども全て自己責任です。」
9時、登り始めて3時間。ちょくちょく休みを挟みながらようやく8合目に到着。天気は、少し前まで晴れやかだったのに今は雲の中にいるかのように視界不良。雨も降り始めた。かなり寒い。フリースの上から雨具を重ね着する。ここで痛恨のミスに気づく。手袋を忘れていた。もしまた富士山に登るとしたら絶対手袋を忘れてはいけないと学んだ。
9時過ぎ、標高が高くなってくると、低地に比べてすぐに心拍数が上がる。空気が薄いことによる影響なのか。呼吸がしにくいとかは一切ないのだが、疲れやすい気がする。さらに雨が強くなってきた。風も強い。視界が悪いため、他の登山者も見えない。この地獄を乗り切った先に美しい絶景があるんだ。それのみを目指して歩を進める。
10時36分、ついに登頂。地獄を抜けた先はさらに地獄だった。景色は一切見えない。かなり寒い。暴風による横殴りの雨のせいで、我が眼鏡は水滴まみれ。余計に見えない。そもそもここは頂上なのか。ウロウロと先に進んでいく。気づくと下山ルートに入っていた。震える手で一枚だけ写真を撮り、わずか3分で頂上から逃げるように去った。
11時30分、視界不良から抜け出した。晴れやかな空。体感温度も変わる。ようやく雨具を脱ぐことができた。吉田ルートの下りは、ジグザグで降りていく。道のりはかなり長く感じる。膝の負担が半端ない。休み休み下山していく。
13時30分、富士スバルライン5合目の休憩所に帰ってきた。高山病なのか分からないが、少し頭痛がする。車でしばらく寝てから帰路についた。
運動苦手でも、なんとか登頂できた。コツコツ一歩一歩進むことで、なんだかんだ達成できるんだということを学んだ。