取るに足らない小噺ブログ

クスリとしていただきたくしょうもない小噺を提供します。

すく

 久しぶりに髪をバリカンでからずに、プロフェッショナルに切っていただくことにした。普段は、15年ほどのおつきあいになるバリカンを使って自分で坊主頭にする。ただ、気分転換というか、なんとなく髪型を変えてみたくなった。髪型変えたら、ひょっとしてモテるかもなんて微塵も思っていない。

 

 私の最近の悩みの一つは、髪が薄いことだ。髪をチラリとめくると、地肌がすぐに見える。髪を切っていただく前に、要望として、髪をすかないように言わなければならない。最重要事項である。

 

 1000円カットのお店に行った。ショッピングモールの一角にある店舗だ。とても暑い日かつ久しぶりの床屋に緊張して、鼻の頭に汗をかいていた。値段が少し上がっていた。1350円だった。動揺してまた鼻から汗が噴き出した。そして、待ち人は10人いる。行列のできる人気床屋である。

 

 自分の番になった。1000円カットのお店は理容師さんを選べない。空いた人から順番に案内されていくスタイルだ。感じの良いおじさんが今回の私のスタイリストだ。

 

 緊張の瞬間だ。スタイリストがどういった感じにするか尋ねてきた。私は、『横と後ろを刈り上げてください。上と前髪は切らないでください。』と伝えた。脳内リハーサル通りにちゃんと言えた。ミッションコンプリートである。これで髪がすかれることはあるまい。ところが、おじさんは、「上の方は重たい感じだから、切らないとバランスが変になります。少しすきます。」とかぶせてきた。私は予想外かつ咄嗟の出来事に何も言えず、その言葉を受け入れてしまった。

 

 視力が悪い私は、眼鏡を外したままカットされるので、仕上がり具合がよく分からない。しかし、プロフェッショナルが言っているんだから大丈夫だ、すいても問題ないと自分に言い聞かせ、鼻の頭に髪の毛をのせながら完成を待った。

 

 お店を後にして、トイレに駆け込んだ。カット前より、頭皮が見えやすくなっていた。やはり髪をすいてはいけなかったのだ。

 

 髪のバランスより、頭皮の見えやすさが気になるお年頃のおじさんでした。