取るに足らない小噺ブログ

クスリとしていただきたくしょうもない小噺を提供します。

腕が限界を超えた

 高校生の頃、電車で学校に通っている時期があった。電車は、7駅ほどで約30分。東京の超満員電車ほどではないが、そこそこ混んでいた。

 

 その日は、運悪く安定感のあるポジションを確保できなかった。ドア付近のちょうど車両ど真ん中である。つり革が少し遠く、右手を少し伸ばした状態で何とか掴めた。

 

 全包囲された人々からの圧迫感に息苦しくなりながら、電車は次の駅次の駅と進んでいく。腕は常に伸ばした状態で辛い。あと一駅のところで、腕がプルプルなり始めた。

 

 あと一駅の辛抱だ。忍耐、忍耐。根性、根性。ついに降りる駅に着いた。右手をつり革からはなした。右手はとうに限界を超えていた。腕は限界を超えると自分の思い通りに動かせなくなることをこのときはじめて知った。知ったときには、おじさんの頭頂部に私のチョップが炸裂していた。悪意は微塵もない。

 

 おじさんはあまりに突然の出来事で、唖然としていた。私はすみませんと言いながら、ささっと電車を降りた。悪いことした小さい子供をきまり悪そうに連れて行く母親のように、悪いことした右腕を抱えてきまり悪そうにそそくさと去った。懺悔します…。