取るに足らない小噺ブログ

クスリとしていただきたくしょうもない小噺を提供します。

おじちゃんを癒したい

 電車の座席に座っている。駅で電車のドアが開き、荷物を両手に持ったおじちゃんが乗ってきた。スーツ姿で、赤いネクタイをしている。雨で前髪とメガネのレンズが濡れている。私の隣の席に腰を下ろした。

 

 電車が駅を出て少し経つと、おじちゃんは、疲れが溜まっていたのか、ゆっくりと私の肩にもたれだした。おじちゃんが恋人であれば、微笑ましい光景になるであろうが、私とおじちゃんでは絵にならない。しかし、おじちゃんを肩の上下運動によって目覚めさせるのもいささか気が引ける。甘んじておじちゃんを受け入れた。

 

 おじちゃんは、営業マンだ。今日もなかなか契約が取れない。雨が降り出したが、傘を会社に忘れてきてしまった。ついてないと思った。次の営業先には、いつも嫌味を言ってくるイヤミーがいる。ため息が自然とこぼれた。ふと、スマホを見ると嫁からメッセージが来ている。メッセージを開けると、そこには、嫁と6歳の娘の笑顔の写真。今日もお仕事お疲れ様ですの一言。奮い立った。さあ、電車に乗って次の営業先に行くぞ。

 

 おじちゃんのしばしの休憩を妨げるわけにはいかない。おじちゃんのももの上から落ちそうになっている荷物も私のふとももで支えた。